difference


「ねえ、咲綺ちゃーん」
「何ー、ゆうくーん」

間抜けな声が響く。
レコーディングの為に訪れた合宿先では、
こうしたやり取りがほぼ毎日繰り返された。

「俺としてはさあ、
此処はシンプルに
叩きたいんだけど、どう思う?」
「じゃあ、ベースが出た方が良い?」
「音のバランスにも寄るけど
俺は別に良いと思うよ?」
「本当?じゃあ此処ベースソロね!」



嵩張る二人でくっつき合う。
とはいえ、別に変な意味では無く、
ただ、曲のアレンジや
フレーズの紡ぎ方等を
話し合う為に近付いているだけなのだが、
どうも其れが周りから見るに
ただ話し合うだけには見えないらしい。

事実、この行動が原因で
のちに真澄と喧嘩する羽目になるのだが、
しかし、俺にとってはごく自然の事だった。

其れに、俺がやらずとも
向こうからくっ付いてくるのだし。

だからと言って、
咎められて無視出来る程、
真澄の事を軽視している訳では
到底無かった。

ただ、二人で話し合いながら
曲の土台を作り上げていく過程は好きだ。
二人でなら一人より
アイディアも沢山生まれるし、
煮詰まった時、
気を紛らわせる事も出来る。

今日もそんな感じで、
二人は一緒にいた。



「ゆうくーん、俺もう駄目ー」
「何言ってんの、頑張ってよ」
「でもさー」

何か言い返そうとしても、
次の言葉が見つからず
誤魔化すように大きな身体を
小さなソファーに預ける。
と、肘掛けに優里が座ってきた。

「頭のぼせちゃった?」
「そうかも。
普段頭使わないもん、俺」
「其れは俺もだけどさー。
でも、曲出来た時嬉しいじゃん?」
「まあ、そりゃそうだけどさあ」

身体を折り曲げてソファーに
無理矢理寝転がろうとすると、
自然と頭が優里の足に
半分くらい乗る形に成った。

其れを見て、優里は
面白そうに笑う。

「何か、真澄くんの前での咲綺ちゃんと
俺の前での咲綺ちゃんって違うよね」
「そう?・・・あー、そうかなあ」
「俺の前じゃ咲綺ちゃん、
子供みたいだよ」
「年下にそう言われるのは
心外だね」

俺の顔を覗き込む優里に
不服そうにそう告げると、
「いや、違うんだけどね」
と優里は繋げた。

「悪い意味じゃなくてさ、
逆に嬉しいかな、って」
「何で?」
「だって、俺にしか
そういう顔見せてくれてない訳じゃん?
其れは嬉しい事だよー」
「そんなもんかなあ」
「そうそ。そういうもんだよ」

笑顔で頷かれて、
再び自分の中で反芻する。

そんなものなのか、と。



「まあ、真澄くんは俺以上に
咲綺ちゃんの色々な顔を
知ってるんだろうけどねー」
「何でそんなに拘るかなあ」
「良いじゃないのー。
て、すげえ。丁度真澄くん来たよ」

優里の声に驚き、
慌てて身を起こすと
確かに優里の目線の先に真澄はいた。
否、目が合った刹那、
向こうに行ってしまったが。

「今の見られてたよねー・・・、
この姿勢とか、さ」
「噂をすれば何とやら、だよ。
超イイタイミングじゃん」
「良くない。どうしよう、俺行ってくる」
「尻に敷かれてる?」

立ち上がった俺に、優里は訊ねてきた。
其れを、曖昧に、
だけども、わりと本音で返す。

「そうでも無い。好きだからね」
「咲綺ちゃんの中の、
俺と真澄くんの違いが解った気がする」
「うん?何?」
「真澄くんの前だと、
咲綺ちゃん、案外強気かもね」
「あの子が弱いんだよ」

短く答えてから、
じゃあね、と優里に告げて
真澄が去って行った方向へと
俺は向かった。



どんなに自然な行為で有れ、
矢張り、好きな人に誤解されるのは
厭だ、という事なのだろう。

其れすら既に、
友達と、恋人に見せる顔の
違いの一つなのかもしれない。



f i n



2001年08月30日 0:06:26///Hanayo*Scar

復活記念にくれました、優里+咲綺♪
ホントに有り難う!!
てかマジに書いてくれるとは思わなんだ〜。
これのね、後の話もあるんだよね?ふふふ。
この2人は素で仲良しで、ネタを振ってこられるので困るね。
そして咲綺×優里か優里×咲綺か物議を醸し出すカップリングでもあるね。
まぁそれはその人のお好みだね。
絡んでなくても、この2人の自然な会話だけで良い感じよ。
真澄はちょっと子どもっぽいからね。咲綺たんもお兄さん面なんだろう。
でも優くんにはホントに甘えてるよ、あの人。年下なのにね。
どっちも大切な存在ってことなんだろうね。



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