black or white ?
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「なぁ、・・・やんねぇ?」
台詞は唐突だった。
「・・・は?」
充分に間を置いて、返せたのは一言。
そんな樹に、遊汝は喉の奥の方でくくっ、と笑う。
「な・・・、何を?」
「セックス」
あっさりした返答と正反対の、熱っぽい目。
覗きこむように見られて、樹は背中を何かが駆けあがったような錯覚に陥った。

『新曲のギターで相談したいことがあんだけど・・・』
そう樹の携帯が鳴ったのはもう5時間以上前のことになる。
久しぶりのオフの日、平日だったために遊ぶ相手も見つからず、
一人で買い物にでも行こうかと考えていた樹がそれを無視するはずがなかった。
二つ返事で了解して、ギターを手に遊汝の部屋を訪れたとき、
遊汝はギターを抱えたままベッドに座りこんで唸っていた。

「・・・行き詰まった。最悪」
聞けば、現在作成中の新曲のコード進行が思うようにいかないと言うのだった。
「どう持っていっても、どこかで聞いたような、ありきたりな進行にしかなんねぇんだよ・・・」
溜息。

それから数時間、樹もギターを手にして手書きの楽譜を前に参戦したのだが、
一度躓いた場所で再び起きあがるのは難しく、
「・・・やっぱ、だめ」
結局同時にギターを放り出した。
「こうなったら、気分転換でもせんとやってらんねぇな・・・」
次いで、遊汝の口から紡ぎ出された台詞が、
「なぁ、やんねぇ?」
だったのである。

メイクもしていない素の瞳に見つめられて、樹の思考回路は麻痺しかけた。
慌てて視線を逸らす樹に、遊汝は僅かな笑みを口端に浮かべてみせる。
「・・・樹」
名前を呼んだだけ。だけど、それがどんな効果をもたらすか、遊汝は知っていた。
樹が下がった分だけ、前進する。
今度は逃げられないようにと軽く腕を掴むと、樹は過剰なほどに反応した。
「なに、を・・・っ」
「・・・気分転換」
樹の首に両腕を投げかける。
「やんねぇ? イイ思い、させてやっからさ」
遊汝は僅かに目を細めてみせると、凍り付いている樹に自分の身体を預けた。
「ちょ、やめ・・・っ」
圧し掛かってきた人間一人分の重みに耐えきれずに、樹は背中からベッドに沈んだ。
衝撃に、ぎし、とベッドが悲鳴を上げる。不敵に笑って、遊汝は樹の下腹部に馬乗りになると、
まじまじと樹の顔をのぞき込んだ。
「美形って、どんな表情しても絵になるモンだな」
「・・・、退いて・・・っ」
さらりと吐かれた褒め言葉に素直に喜ぶ余裕もなく、
樹は身を捩らせながら不安と不機嫌を混ぜた瞳で遊汝を見上げた。
樹が、本気で遊汝を押しのければ、この形勢を抜け出すことなど容易なはずであった。
だが、それをしない、否、したくともできない事実は、この二人の関係を的確に表している。

「一体、何考えて・・・」
形のいい眉をよせて、倒された身体を起こそうとするのが樹には精一杯の試みであった。
「いいだろ、しばらく付き合えよ」
「・・・っ、嫌だよっ・・・」
台詞よりも、口調は強くない。
「ふうん・・・俺の頼みを聞いてくれないわけ?」
故意に、温度のない表情を作ってみせると、樹は困惑したように目線を逸らす。
遊汝は、至極満足そうに笑んだ。
美形は、どんなに見ていても嫌な気分になることはない。それは、相手が男でも女でも同じである。
そして同時に、遊汝はその整った顔が困惑や失念の色に染まるのを見るのが好きだった。
崩れた笑顔を美しいと思わない。戸惑う瞳、哀願の表情。
彼は、そういうものに美を感じるタイプであった。

「・・・樹」
その整った顔を覗きこむように自らの顔を近づけると、樹は戸惑って僅かに身体を引く。
さらに近づける。
「やめ・・・っ」
下りて、と言いかけた口は、そのまま遊汝の唇によって強引に塞がれた。
「ん、んん・・・っ!」
押しのけようとした手は、力任せにベッドに押さえつけられる。
歯間を割って滑りこんでくる舌に、樹はほんとうにどうしていいか分からなくなった。
突き飛ばせば、抜け出せる。分かってはいたが、それを出来ない自分がいた。
そして、その観念に縛られている限り、遊汝には決して勝てないことも分かっていた。

抵抗なんてするまもなく、巧みに舌を絡め取られる。逃げてもすぐに追いつかれて、吸われる。
遊汝にどれだけの数の経験があるのか知らないが、キス一つでおおよその想像はついた。
溶けるのではないだろうかという、錯覚。
舌と同時に理性まで絡め取られる。
煽られる。
「っ・・・」
僅かに唇を離して、遊汝は熱を孕んだ瞳を樹に向けた。
樹が何か言うより早く、再び唇を重ねる。その瞬間に、小さな笑みが遊汝の口許を飾ったのを、樹は見ただろうか。
自分の上から遊汝の重みが退き、間もなく自らのベルトが抜かれてジッパーが下ろされるのを、
樹はどこか他人事のように感じていた。
唇は繋いだまま、下着の中にゆっくりと手が差し込まれて、その冷たさにぴくりと震える。

「・・・んっ・・・」
血液が集まりかけた中心を握り込まれて、思わず鼻にかかった声が漏れた。
思い出したかのように、樹は再び抵抗を試みる。
が。構わずに動かされる手に、すぐに力は失われた。
遊汝の好きな、瞬間であった。
人間の理性なんて、結局本能に勝てやしない。
どんなに外見をおキレイな言葉で飾っても、その根底にあるモノは汚れた欲望のみである。
仮面を取れば、中身はただのケモノ。
服と同時に理性という仮面を剥ぐ。
それは、遊汝の楽しみの一つであった。

唇を離すと、透明な糸が引いた。
「っ・・・、ゆなさん、やめ・・・」
「それは、反応しながら言う台詞じゃねぇな」
唇をどちらのものともつかない唾液で濡らしたまま、笑ってみせる。
まだ中途半端ではあるが、樹の中心は明らかに反応を示していた。血液の集結。
「いいじゃねぇか、減るモンでもなし」
「ぅ・・・」
強弱をつけて弄ばれて、樹は眉を寄せた。僅かに開いた唇から、吐息が零れる。
「・・・相手が美形だと視覚的にも気分がいいな」
薄い笑いを閃かせると、遊汝は身体を移動させ、樹の中心を咥えた。
手とは違う、柔らかく熱い感触に、息を飲む。
「・・・っ・・・」
舌で転がし、愛でるように吸うと、樹はひくひくと反応した。
奉仕するよりされる方を遊汝は好むのだが、咥えるのは嫌いではない。
言葉より正直なそれが反応するのを、ダイレクトに感じられる。
舌先でかたどるように舐めあげると、先端から苦味が溢れた。
「っく・・・ぁ・・・」
「気持ちいいだろ?」
完全に欲望を示す樹の中心に、濡れた唇を寄せたまま遊汝は樹を見上げた。
美形の頬が上気して薄赤い。
「持ち主に似るな、コレ」
指先でつつ、と辿って、遊汝は含むように笑ってみせた。
「おまえに似てる」
「・・・なに、言って・・・」
「褒めてんだから喜べよ」
言うと、再び遊汝は口腔の奥深くまで樹の中心を咥えこんだ。
唇と舌で締め付けて、そのまま頭を上下させる。
「う・・・ぁ・・・」
どこをどう褒められたのか、分からないまま樹は与えられる刺激に翻弄される。
抵抗する気持ちは、すべて本能によって消滅させられていた。
「あ、も・・・っ・・・」
口の中の樹が、耐えきれない、というようにビクビクと震えた。
根元から先端に向かって丁寧に舐めあげて、そのまま軽く吸う。
「・・・っ・・・!」
声を押し殺して、樹は遊汝の口の中に自分を吐き出した。
コク、と喉が鳴る。
「・・・ゆっ・・・、まさか、飲・・・」
「美味」
息を乱した樹に、遊汝は唇の唾液を舌で舐め取りながらにっこりと微笑してみせた。
くらくらと眩暈がした。
頭と視界に、フィルターが何枚も掛けられたかのような、錯覚。
「・・・な? 楽しいだろ?」
質問というよりそれは確認。
「・・・、・・・」
無言は、肯定であったか、否定であったか。


「・・・っぁ・・・」
「ん・・・っ・・・」
座った樹に向かい合うようにして、遊汝はゆっくりと腰を下ろしていく。
さすがに、余裕で、と言うには無理があった。
「ぁ、遊汝さ・・・、キツ・・・」
「・・・っ、煩い、我慢しろっ・・・」
ローションをたっぷり使ってほぐしはしたが、遊汝のそこが狭いことに変わりはなく、
ドクドクと脈打つ樹の中心を飲み込むのは決して容易ではなかった。
「っ・・・」
火照った蕾に絞め付けられて、樹は息を洩らした。
女のものとは明らかに違うその感覚に、男の本能が掻き立てられる。
「・・・樹、っ・・・動け」
「え、でも・・・」
「動け、つってんだよっ」
熱い息を吐き出しながら言われて、樹は遊汝の細い腰を支えると、動きやすいように体勢を立て直す。
「っぁあ・・・っ・・・」
その拍子に、ずる、と遊汝は一気に根元まで樹を飲み込んだ。
衝撃に、思わず仰け反る。
「・・・、遊汝さん・・・っ・・・?」
「いいからっ、動け・・・っ」
言われるがまま、樹は動き出した。
「ん、・・・っ・・・」
繋がった場所が熱い。その熱が、何よりも心地よい。
遊汝の中で、ただの圧迫感だったものが抽挿によって徐々に快楽へと姿を変え始める。
腕を樹の首に回す。そのまま形のいい唇に吸いつくと、樹は必死で遊汝に応えた。
「ん・・・、いい・・・っ、もっと、動け・・・」
「ぁ、ゆな、さ・・・っ」
容赦なく締め付けてくる遊汝に、軽い眩暈を覚えた。
その身体に、その快楽に、のめり込む。
ベッドのスプリングが軋みながらも、上下の動きを手伝ってくれる。

「んっ・・・、ぁ・・・」
ふるふる、と遊汝が頭を振ると、金の髪が宙に舞った。
「樹っ、・・・ぁ、もっと・・・っ」
「ぁ、・・・もう、・・・っ」
限界が近い。
そう伝えると、遊汝は樹の手を取って自分の中心へ導いた。
「っ、・・・イくんなら、俺をイかせてから、だ・・・。先にイッたら、赦さん・・・っ」
傲慢な台詞。
だけどそれは、どこか遊汝に似合っていた。
樹は、おずおずと遊汝の中心に触れた。
そこはもう十分なほど勃ちあがっていて、先端からは透明な雫を滲ませている。
どうしていいものか戸惑うも、樹はとりあえずそれをゆっくりと握り込んだ。
遊汝も自分も、同じ、男である。
自分がされてイイことは、相手にしてやってもイイはず・・・。

「・・・っ・・・」
手のひらを上下にスライドさせる。ローションと体液の混じった潤滑油のおかげで、抵抗なく指が滑る。
「っ、ふ・・・」
繋がっている遊汝を刺激することは、同時に自分への刺激であることに樹は気付いた。
指先で遊汝の先端を擦る。
と、意識的にか無意識にか、呼応するように樹を咥えこんだ蕾が締まる。
「っぁ、焦らしてんじゃ、ねぇよっ・・・」
熱っぽい目で睨まれて、頭がくらくらした。再び動き始める。
「ん、・・・ぅん・・・」
思考回路は、微熱に溶かされ、残るは遂情の欲求のみ。
接合部から洩れる濡れた音も、僅かに開いた唇の間から零れる息も、
動きに共鳴するように鳴るベッドの音さえも、熱に浮かされた頭には即効性の媚薬になる。
「っ・・・ん・・・、樹っ・・・」
耳元で熱い吐息と共に名前を囁かれて、樹の内部に潜む雄が唸り声を洩らした。
「遊汝さん・・・っ・・・」
「ん・・・っ・・・、ぁ・・・」
遊汝の細い腰を支えながら突き上げる。仰け反った薄い胸の、小さなほくろに口付ける。
「・・・ぁ、いいっ・・・、樹っ・・・」
何度目かの深い挿入に、遊汝のなかが、きゅう、と収縮した。
「・・・っ・・・」
堪えきれずに先に達したのは、樹だった。自分のなかに蜜が満たされる熱さを感じて、
追い掛けるように遊汝が遂情する。
「・・・ん・・・、ぁ・・・」
全身の緊張を解いて弛緩しながら、遊汝は樹に口付けた。
「・・・赦す」
「え・・・?」
「ヨかったから、赦す」
それだけを言って、再び濡れた唇を重ねてくる。
言葉の意味をよく理解できないまま与えられる口付けの洗礼に、樹は深く考えることをやめた。
絡められるその舌と交わる唾液を、とても、甘く感じた。




次の日。
新曲のコード進行は、何時間も悩んでいたことがまるで狂言だったかのように、
完璧に出来あがって樹の前に差し出された。
「また躓いたら速攻呼ぶから」
さらりとそう言ってのける。
「・・・相談に?」
「相談兼、気分転換。・・・断らないよな?」
意味深に唇の端をつりあげる遊汝に、樹はただ、無言だけを返した。

是か、非か。
遊汝は敢えてそれ以上聞かなかった。




END

 

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めぐみさん、あたしのリクに応えてくれて、ホントにありがとー!(愛)
最近遊汝受けブームな私、のち。
遊汝受けは世間様の目が厳しいですね…。
でも、ほら、誘い受けだと、こんなにはまるでしょ?みたいな。(笑)
遊汝精神攻めの誘い受け(謎)ですね。

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