cool


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ミヤを見つけ出すのは簡単な事だった。
地元が一緒で、アイツの行動範囲は良く知ってたし、
そう多くは無いミヤの友達の殆どが俺の知り合いでもあったし。
奴らの内の大半も、多少えげつない脅し文句を使えば、
ミヤの頼りそうな奴、行きそうな場所を簡単に喋ってくれた。

――その時は、捕まえるつもりも連れ戻すつもりも無かった。
確かにミヤがSにいた頃から俺らは付き合ってたし、
訳わかんない別れ方されて、納得しきれない気持ちはあったけど。
ま、今更そう言ったところで誰が信じてくれるとも思わんけどね。

×××

アイツがバイトしてるって言う店を訪ねて、
出てきた店員にミヤと俺の本名言って、
どのような御用向きですか?って聞かれたから、
俺の名前を言えば分かると思うんで、
なんて古風な手で呼び出して。

「ゆ、な…」
しばらく経って店の奥から出てきたミヤは、
姿を消した頃より更に痩せて――と言うか、
やつれた感じがした。
「久しぶり」
金色のままの頭をぐしゃぐしゃ撫ぜて、笑ってみせる。
俯いて目を伏せ、ミヤは俺の為すが侭にそこに立ち尽くして。
「どうしたんだよ。いつもと違うじゃん」
バンドに居た頃は、俺とだけは結構喋ってたコイツが、
絶対に俺を見ようとしない様子がちょっとむかつく。
そんなに気まずく思うくらいなら、
初めから逃げなきゃ良いのに。
「なあ、今日何時に終わんの」
「え?」
「バイト何時までかって聞いてんの。
ちょっと話したいから、終わるまで待ってる」
「…10時…」
か細い声でミヤは答える。
「後2時間もないんだ?
じゃ、駐車場にいるから。
俺の車分かるだろ」
そう言い残して、ミヤの言葉を待たずに俺はその場を離れた。
俯きっぱなしで答えようとする素振りすらなかったけど、
コイツもまた逃げるほど馬鹿じゃないだろうと思って。

×××

予想通り10時ちょっと過ぎに、
おとなしくやって来たミヤを車に乗せて、
俺の家に連れて行く。
部屋に上げて適当に座らせてから、
俺はさっさと切り出した。
「何で逃げたんだよ?」
「…………」
「お前がどう思ってんのか知らないけど、樹たちも心配してたんだぜ」
「…………」
「そのへん、もう少し考えて行動したら」
ミヤが何も答えようとしないから、思うままに言葉を投げかけた。
何を思ったのか、一瞬だけ目を上げて俺の顔を見たけど、
すぐにその視線も落とされる。
「何か辞めたくなるようなことがあったなら、言えば良かったのに」
「ううん…何も無いよ」
「お前さあ…」
どうしようもない答え方に、思わず笑ってしまう。
――理由も何も無いのに、いきなり行方不明で音信不通になったりするわけ?
歌下手でも、人付き合い出来なくても、ファンに笑顔一つ向けられなくても、
それでも何とかやっていこうとする哀れなほどの姿勢があったから、
お前のこと信用してたのに。
「…お前がそんな人間だと思わなかった」
意識する前に、そんな言葉が洩れた。
自分の顔が笑ったままだったのが分かって、
何か凄い妙な気分になる。
別に可笑しくも何とも無いのに、何で笑ってんだろ。
「…遊汝、」
どうせ答えないだろうと言う俺の予想とは裏腹に、
ふいにミヤは顔を上げて、俺を見詰めてきた。
ミヤの眼の中で小さく感情が動いた気がしたけど、
その時はそれが何だったのか分からなくて。
「何?」
「俺、」
言いにくそうに口を噤む。
何だよ、っつって促すと、一度深い息を吐いて、
ミヤは静かに感情を爆発させた。
「…俺は、信用して欲しいなんて言ってない。
俺のこと信用して良いとも言ってない。
遊汝が勝手に信用して、期待したんだよ。
それで勝手に失望しておいて、何でそんなこと言うの?」
「はあ?」
「俺のことなんか信用しないで。
そんなこと、頼んでない」

――ミヤの声はごく静かだった。
何時もの感情を押し殺した、保守的な声。

だから余計、こいつが何言ってんのか良く分かんなかった。
確かにこいつは、信用してくれとも信用してイイとも言わなかったよ。
でも、だからってその言い草何?

勝手に信用するなって言うなら、
信用できそうな素振りなんか見せんな。
信用した俺が全面的に悪くて、
お前は悪くないのかよ。

「――ふざけんな!」
気付いた時には、もう遅かった。
目の前に現実が戻ってきたのは、
ミヤに掴みかかって、
その白い頬を殴りつけた後で。
「そんなに言うんなら、お前のことなんか二度と信用しねえよ。
お前が何言っても信用しないし、何しても信用しねえ。
それで良いんだろ!」
「痛!」
床に倒れたミヤの上に馬乗りになって、
何度も殴りながら怒鳴る。
悲鳴みたいな声を上げて逃げようとする髪を掴んで、
無理矢理上向かせた。
「こうやって裏切られる方の気持ちなんか知らねえんだろ。
信用されないのがどんな思いなのか、お前知らねえだろ!」
「離してよ…ッ」
「離さねえよ。二度とそんな口利けなくなるまで離さねえ。
オマエがやったこと、全部教えてやるよ。
泣いて信用してくれって言えるようになるまで離してなんかやらんよ」
口唇の端から血を流すミヤを一度蹴り飛ばして
ガムテープを取りに行く。
腹を押さえる細い手首を一つに縛り上げ、
足首にもガムテープを巻き付けてから、
俺はミヤのコートのポケットからケータイを取り上げた。
「何するの…」
「バイト先には辞めるって連絡しといてやるから。
オマエん家のガスとか水道も止める」
「何で…っ」
「ちゃんと聞いてろよ。離さないっつっただろ」
苦しそうに声を絞り出すミヤに、
吐き棄てるように、嘲るように言う。
「コレも俺が預かっとくから」
ケータイのメモリを検索しながら言うと、
ミヤは一瞬だけ眼を瞠って、そしてすぐに力なく項垂れた。
やがて掠れた啜り泣きの声が聞こえ始める。

×××

――そうして今、ミヤは俺の部屋に繋がれている。
と言うか、俺に繋がれている。
 
初めは。
ミヤに会いに行って、
俺、何を言うつもりだった?
何を話すつもりで、あんなに必死に探してた?
時々そんなことをぼんやり考えるけど、
結局思い出せなくて。

もしかしたら俺が本当にやろうと思ってた事は、
ミヤを俺の下に連れ戻すことだったのかもしれない。





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これは、ある本から得たものと、実体験を混ぜてみまして。
のっちんも言ってたけど、実体験入はやっぱり書き易いですね。
その分痛いけどねッ!(何)

わたし的には、ミヤは本気で言ったわけじゃないとは思ってるんですけど。
ホラ、意外な傷って、予想済みの傷より痛いし凹むと思いません?
そうすると自己防衛本能も過剰に働くし。
そんな感じですかね。(分からんよ)

題名の「cool」は、
「押し付けがましい、ずうずうしい、厚かましい」という意味の方。




(2001.0317 雪緒)



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