破戒

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「今?」

「今は、遊汝のところにいるよ」

「うん。何で?」

「別にそういうわけじゃないけど…大体、もうバンドやるつもり無いし。
其れ以前に、ここから出られないようになってるから」

「うん、そう、監禁されてる」

「別に…他にすること無いし」

「したいことも、無い」

「じゃあ何って…遊汝が居ない時は、何もすること無いけど、
遊汝が居れば、相手するだけ」

「犯罪とか、そんな大層なものじゃないよ」

 だって、俺が呼吸を楽にしていられるのは、ここしかないから。

ここにいれば、日常的に殴られる。
蹴られる。
貶される。
辱められる。
放っておかれることもあるし、
優しくされることに至っちゃ、月に何度も無い。
 それでも、他の場所に居るよりは、ずっと楽で。
何でだろうね?
 やっぱり、すこし頭おかしいのかもね。

「…とにかく、逃げる理由も無いしね。そんなに問題ないよ」

「うん…そっちから見たら、おかしいかもしれないけど」

 でも、結構――と言うか、ある意味で、
俺は倖せなんだから。
 俺の性質と、遊汝の性質と、過去の事が絡み合ってる上に、
辞書に載ってたり法律で定められたりしてるような「幸せ」じゃないから、
分かる人なんて滅多に居ないだろうけど。

「とにかく、俺、このままで良いから。じゃあね」

 電話の向こうでまだ何か怒鳴ってる友人を無視して、
通話を切る。
ケータイを放り出して振り返ると、
遊汝が笑いながらこっちを見ていた。
「…何?」
「友達?」
「うん。バンドやってた頃の。遊汝も知ってると思うよ」
「そ」
 短く答えて、喫いかけのタバコを灰皿に押し付けると、
遊汝は黙って覆い被さってくる。
「こんな生活で良いんだ?」
「うん」
「お前、マジ変態」
「…遊汝もね」
 答えると、首筋に噛みつかれた。
このまま抱かれれば、
たぶんまた躯中に鬱血ができる。
 ――それでも、今日はかなり機嫌の良い方。
次に来る時は、また容赦無く殴られるかもしれないし。
 でも、それでも良いって思うよ。
変態って言うか、マゾヒストだから。
「…ん、」
 遊汝のつめたい指で、肋骨のあたりを探られる。
意識がおかしくなる前に、俺は聞いた。
「ね…、遊汝は?」
「あ?」
「遊汝は、ここの生活、どうなの」
 元より、優しい答えなんか期待したわけじゃなかった。
遊汝のことだから、どうせまた酷い言い草で、
投げやりに答えるんだろう、くらいの思いで。
 なのに遊汝は、考えるように、少しのあいだ動きを止める。
そして吐き出された言葉に、俺は笑ってしまった。
「…悪くない」

 ――ほら。
やっぱり、そんなに問題無いみたい。
開き直るわけじゃないけど、
お互いが悪くないと思ってるんだから、
これはこれで良いよね。
ものごとの定義なんて、無いも同然。
俺の倖せは、俺が決めるから。

 やっぱり、しばらくはこのままで良いや。


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何か分かりにくいんですが、まあ一種のノロケかと。(絶対違う)

でもまじな話、両親揃ってて倖せな人もいれば、片親でも倖せな人も、
両親揃ってても倖せじゃない人もいるじゃないですか。
自分がそう言うのを実感させられる環境にいられたおかげか、
そういうふうに、倖せの形なんて人其々なのに、
それが分からない人も意外と多いことに、
中2の頃には凄いむかついてました。
子供だったなぁ。(遠い眼)

わたしは自分なりの倖せをそれなりに得ていて、それに自信もあるので、
今では多少の偏見も侮蔑も「それがどうした」って思えるし、
自分の思う「倖せの形」以外のものを蔑むか排除するかしか出来ない人は、
それこそ哀れだと思って笑えますけど。

題名の「破戒」は、ユナミヤって、
一般概念の「倖せ」の範疇に収まらない愛情関係だなと思って。
前述のことをわたしに教えてくれた方々に対する、
一種の厭味。


(2001.0319 雪緒)


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