「一緒に日本一のバンドを作ろうぜ」
そういって笑ったあの顔は
紛れもなく
純真な笑顔だったと思う
×××
「おまえが悪ぃーんだろ」
もう何回殴られたことだろう
気が遠のいていくのが分かる
一発で気絶してしまえば
どれだけラクなのだろう
人間の体は
思ってるよりも頑丈で
何回殴られても
意識が遠のくまでには
時間がかかる
歯向かうことも
やり返すことも
許されない
一方的な暴力
俺が歯向かえば
きっと矛先は零名に向かうだろう
もしかしたら橙ちゃんや大関くんに向かうかも
それをさせないためにも
俺は遊汝さんが飽きるまで
ただただ殴られるだけ
「今日あそこのフレーズ間違えただろ」
「そこは俺が喋るとこだろ」
「あの態度は何だ」
「ふざけんのもいい加減にしろ」
色々な言いがかりをつけられて
毎日の様に殴られる
いつからだろう
遊汝さんが
こんな風になってしまったのは
「お前なかなかギター弾けるんじゃん」
「俺と一緒にバンドやらん？？」
「一緒に日本一のバンドを作ろうぜ」
そういって目を輝かせていた
出会ったばかりの頃のあなたは
何処へいってしまったんですか
遊汝さんの蹴りが
俺の腹に命中した時
俺はやっと意識を手放した
×××
「気、付いたか」
目を覚ましたら
そこは見慣れた場所
俺の部屋
目の前には
見慣れた顔
「あぁ、おーぜきくん。俺どうしたんだろ」
「お前意識失ってたんだよ。んで遊汝が運んできた」
体を起こそうとすると
全身に痛みが走った
「無理すんなよ」
「…これ大関くんがやったの？」
俺の体には湿布
顔にはバンソウコウ
丁寧に水で濡らしたタオルまで置いてある
「それなー…遊汝がやったんだよ」
「遊汝さんが？」
不器用に貼られたバンソウコウの下の
傷がうずく
この痛みは
俺の痛みであり
遊汝さんの痛み
なんだろう
「遊汝さ、ミヤのことがあってから
人が変わったみたいだよな」
「うん…」
「お前を殴った所で、どうにかなるわけでもないのに。
自分の傷を自分でえぐってるような感じでさ、見てらんねぇよな
…あ、夕食、持ってきてやるよ」
「ありがと」
そういって扉を開ける瞬間
「俺じゃ…俺達じゃ、ミヤの代わりにはなれないんかな」
そう呟いた大関くんの背中は
いつになく小さくみえた
あの人が変わったのは
あの時から
そんなこと
本当はわかってたけど
認めたくはなかった
ミヤくんがいなくなったのは
俺達のせいもあると思うから
すなわち
遊汝さんが変わってしまったのも
俺達のせいってこと
認めたくなかった
一番ズルイのは俺
一番弱いのは俺
「あ、そだ、遊汝から伝言。“悪かったな”ってさ。」
「遊汝さん…」
「ゆな…すぐに手が出るやつだけど、ホントは優しい奴なんだよ
……わかってやってくれよ」
「わかってるよ」
わかってる
痛いほど
殴られる度
伝わってくる
悲痛な感情
罵声を浴びせるその口とは裏腹に
その目に浮かぶ哀しげな色
嫌いになれない
彼のことを
彼のことを憎めたら
どれだけラクなんだろう
殴られても
殴られても
思い浮かぶのはあの日の笑顔
あの日の目の輝き
あなたの傷が
俺を殴ることで癒されるんなら
俺はいくらでも殴られます
でも
現実は
俺を殴る度に
あなたの傷は増えるばかり
俺は
自分で自分を傷つける
あなたを止める術を
持っていないんでしょうか
そして俺は
そんな弱い
自分を憎む
end
―――――――――――――――――――――――――
なんか樹さん無責任な終わり方ですね（苦笑）
すみませんす。
ていうか樹さんファンには本当に申し訳ない（＞＜）
何かと遊汝擁護ですよねー…あたしの文章。
ミヤは、遊汝が可愛がってるわりには
他のメンバーからは散々言われてましたよね。
だからそれに樹さんは後悔を感じてるって感じで。
憎しみの対象が
悪の根元でなく、最も近い者に転化して向けられる
っていうハナシを国語でやって。
それの影響で
こんな感じの結末になってしまいました。（滅）
いくら酷いことをされても、いくら傷付くことをされても
嫌いになれない人っていません？
その人の悪いトコが見えてくる度、
その人の良いトコが思い出されるんだよね。
そのうち「自分が悪いんじゃないか？」って思えてきたり。
あと、この話はユナミヤの「regret」とある程度リンクさせて下さい。
後日談、って感じで。
でも結局、いっちゃんを殴ることでは
遊汝は救われないんだよね。
結局救われないんじゃん！
ということで、また救われる話でも書きたいと思います。
でもそれを救うのって誰よ……やっぱ橙？
意外とゼキ？
むしろカイキ？
はぁ…考えておきます。
ちなみに「傷」って別にVeillの曲から付けたわけじゃないです。（笑）
題名っていつも凄い悩むんですよね…。
辞書とか開いちゃったり。
でも結局シンプルに「傷」で。
遊汝の傷と、樹の傷。
比較してみて下さいね。（のち）