paradoxical affection

======================================================================


 殴られたり蹴られたりすれば、
どれも其れなりに痛いには痛い。
だけど、多少なりとも遊汝が手加減してくれているのか、
其れとも単に俺自身が打たれ強いのか、
あまり気にはならなかった。
この部屋でおとなしくしている分には、
顔や体の痣を気にする必要も、
無理に痛む体を動かす必要も無いわけだし。

 だから、遊汝の手の痣を見付けた時には、
俺の方が驚いてしまって。

「何これ?」
 バンドや事務所のことで何かあって不機嫌な時、
遊汝は何時も、俺を殴るか抱くかのどちらかで気を晴らそうとする。
その時はたまたま殴る気力も残っていなかったようで、
遊汝に抱き寄せられたまま、俺はおとなしくその腕に収まっていた。
「は?」
「ここ、痣になってる」
「…ああ」
 遊汝の胸に背を預ける形になっていた俺の視界には、
胸の前に回された手の甲の痣が映っている。
「何処かにぶつけた?」
「いや」
「じゃあ、八つ当り?」
「…………」
 不思議なもので、遊汝が不機嫌で沈んでいる時ほど、
俺は色々と喋ってしまう。
「誰か殴ったんでしょ」
 紫に変色している痣を指でなぞりながら、軽口程度にそう言った。
首を巡らせて遊汝を見上げると、酷く苦々しそうな表情をしているのが見える。
そして少しの間を置いてから、俺の方を見ないようにしたままぽつりと呟いた。
「…オマエだよ」
「――あ…」
 ばかみたいだけど、遊汝の言葉を聞いて、そこで初めて気付く。
遊汝は何時も、痛む素振りひとつ見せずに俺を殴るから、
そんな簡単なことにも気付かなかったのだけれど。
 俺にこれだけの痣を残すくらいの殴り方をして遊汝の手が無傷なわけが無いし、
こんな痣が残るくらいだから、痛まないはずも無い。
ギターを弾く時に影響しないとも言いきれないだろうし、
四六時中一緒に居るメンバーに気付かれるだろうし、
ファンが見たら下らない噂を立てたりもするだろう。
 それが分かっていても、それでも尚ここまでしないと、
遊汝は「自分」を維持できないんだろうか。
「…痛い?」
「別に」
「でも、痛かったでしょ。
自虐的だね。相変わらず」
 掠れた、疲れたような声で、遊汝は一言で答えてくる。
無理矢理その手を持ち上げて、俺は痣にそっと唇をつけた。

 …それで遊汝の苦しみが軽減するなら俺を殴っても良いなんて、
そんなことは少しも思わない。
俺に関係の無いことで殴られるのは理不尽だし、
痛みがあることに代わりは無いのだから。
 でも、「…オマエだよ」、そう答えた時の遊汝のあの表情と声。
すごく苦しそうな表情で、言い難そうな小さな声で。
 殴る・殴られることの物理的な痛みが同じくらいだとしても、
もしかしたら、精神的には俺よりも遊汝の方が、ずっと痛いのかも知れない。

 俺がここから逃げたいと思えないのも、
遊汝のことを憎めないのも、
全てそこに起因するのだろう。



======================================================================


イヤ、逃げなよ。(何)

これについては詳しいコメントは自粛します。
題名のことだけ少し説明すると、
愛を「affection」にしたのは、
ラヴよりも持続的で穏やかな愛に使うそうなので。

て言うか、自分で言うのもアレなんですけど、
文中で描写したユナミヤの体勢が好きなんですよ。
それを妄想して一人で萌えただけ。
変態!(→逃走)


(2001.0319 雪緒)

Back

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル