Always with you
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手をつないで眠ろう

そして、ふたり一緒の夢を見られるといいね



ミチの行動の唐突さや突飛さというのは、8年を越える付き合いの中で、もう十分に把握してるつもりでいた。
けれど、それがいかに自信過剰であったか。
そして、彼がいかに侮れない人物であるか。
この二つを、タクヤはこの日―6月14日に、その身を以て再確認させられることになる。


「タクちゃん、まだ寝てるの?」
そんな心外そうな声で起こされる。
それと同時に覆い被さってくる体重を感じて、タクヤは眼を開けた。
確かめるまでもなく、こんな起こし方をするのはミチしかいない。
いつも何の連絡もなくやってきて、勝手に合い鍵で部屋に上がり込んでくる、
容姿の割に甘えたがりなこの男が、タクヤの恋人だ。

「ね、起きてよ」
「何やミチ、こんな朝っぱらからー…」
時計を見ると、まだ10時にもなっていない。
決して遅い時間でもないが、人の家にやってくるには早いような気がしないでもない。
「二度寝しない!起きてってば!」
「…あー…」
もう一度布団をかぶって寝ようとしたタクヤを、ミチは無理矢理抱き起こす。
ベッドの上に座り込む形になって、タクヤは渋々眼を開けた。

「ほら、起きたら早く支度して」
「はぁ…」
寝起きで頭が働かないのか、ベッドに座り込んだまま、曖昧な言葉を返すタクヤ。
そんなタクヤの様子を見て、ミチは笑いながらその隣りに腰を下ろした。
「タクちゃん、この大事な日にそんな顔してないでよ」
「んー…何かあったっけ?今日…」
「ひどいな、ちゃんと言っただろ?結婚式しようって」
「……マジで!?」
至極当然とでも言いたげなミチの言葉に、タクヤは思わず大声で問い返す。
けれどミチは怯むことなく、にっこりと微笑んだ。
「そうだよ。俺は言ったことはやるからね。ほら、早く着替えて」
そう言い残して部屋のカーテンを開けにかかったミチを、タクヤはややも唖然として見つめてしまう。

…結婚式。
確かに二人が様々な紆余曲折を経て、心身共に寄り添うようになったのは事実だ。
大袈裟といえば大袈裟かもしれないが、生涯を共にする覚悟ができてないわけでもない。
だからと言って、結婚式?

「相変わらず、何しだすか分からん奴やなぁ…」
これまでも、忘れ物のひどさや何かには散々手を焼いてきたけれど。
だからと言って、まさか結婚式をやろうだなんて、全然予想もしなかった。
「…タクちゃん、あんまり乗り気じゃないでしょ」
「え?ああ、そうやなくて」
何となく今までのミチの言動を思い返してみたりしてしまったタクヤに、ミチは拗ねた子供のような視線と言葉を向ける。
慌てて笑顔をつくって、タクヤはベッドから降りた。

―どちらにしろ、ミチと二人きりで過ごすのなんて結構久しぶりだ。
その点に関しては、タクヤも満更ではない。
それに、どうせ結婚式とは言っても、いつも通りにドライブや買い物をしたりして、一日中一緒に過ごすくらいのものだろう。

「じゃ、今日はミチに任せるから」
「本当?嬉しい」
タクヤの言葉に、ミチは屈託のない笑顔を返す。
けれどタクヤは、自分の思い違いにこの時点では全く気付いていなかったのだった。



――そうして2時間後。

「…なぁ」
「うん?」
「……どこまで行くん?」
「秘密」
「………」

予想通り、始めはドライブ。
やはり上機嫌なままで車を走らせるミチだけれど、助手席から訊いてみても、
その行き先だけはどうしても教えようとはしない。

「安心してよ、変な所には連れていかないから」
「それは…当然やろ」
「あぁ、眠かったら寝てていいよ、着いたら起こしてあげる」
「…機嫌ええなあ」
いつになく饒舌なミチの様子を見ながら、タクヤは数ヶ月前のことを思い出していた。

そう、確かあれは4月半ばの頃の出来事。
何の連絡も前触れもなく、急にミチはタクヤの家を訪ねてきたのだった――
「受け取ってください」
一言そう言われて差し出した小さな箱を、タクヤはついまじまじと見つめてしまった。
その小箱は布製で、深い青色をしていて――どう見ても、指輪のケースにしか見えない。
「…なんで?」
「何で…って」
真意が読みとれなくて、単刀直入に訊いてみると、ミチはがっくりと肩を落とす。
「…エンゲージリングのつもりなんだけど」
「エンゲージって…婚約指輪のことやろ?」
「そう。受け取ってくれないの?」
いまいち状況が飲み込めないタクヤの言葉に、不安そうに問い返すミチ。
一瞬考えて――タクヤは、もう一つ問うてみることにした。
「それってプロポーズなん?」
「勿論そうだよ」
「…本気で?」
「本気も何も、指輪を贈るって言ったらそれしかないだろ?」
「それはそうやけど…」
躊躇いがちなタクヤに対して、ミチは至って真剣な顔をする。

――言葉はいくらでも撤回できるし、この場合法律的な事は何一つ関与しないとはいえ、
婚約は、生涯を共にする約束を結ぶこと。
タクヤにしても、ミチと共に生きていこうという心はとっくに固めたはずなのに、
それでも、果たして本当に受け取ってしまっていいのかという漠然とした不安が過る。
そんなタクヤの心の内を感じ取ったのか、ミチは首を傾げてタクヤの顔を覗き込んできた。

「…まだ不安?」
「う…ん」
曖昧に頷いてしまうけれど、自分でも、何が不安なのか分からない。
本当に、タクヤの感じている思いは漠然としすぎていて、言葉にできないのだ。
それをどう告げればいいのか考えあぐねるタクヤを、ややあってから、ミチは抱きしめた。
強くでもなく、弱くでもなく、ちょうど心地よいくらいの強さで。

「…俺はタクちゃんが好きだよ。愛してる。これはずっと変わらないから。――それだけじゃ駄目?」
ひとつひとつの音に約束を込めるように、ミチはゆっくりと言う。
その言葉に、タクヤは、圧迫していた心がふっと解放されるような感覚を感じた。
不安が消え去ったわけではないけれど、それでも、様々な痛みの後に手に入れたこの愛情に、
自分の生涯を捧げても良いかなと思う。

「…それで充分」
ミチの背を抱きしめ返して、タクヤはやわらかな口調で答えた。
その言葉に、ミチはひどく嬉しそうな顔をする。

「じゃあ、6月15日は空けといてね。結婚式やるから」
「は?何言っと…」
また変なことを、と笑い飛ばそうとした口唇はミチにふさがれる。
こうして抱き合っていられる現実があまりにも大切で、タクヤも、
ミチの言う“結婚式”については、それ以上追求しなかった。

「タクちゃん、愛してる」
その一言だけで、どんなことでも受容できそうな気がして。




to be continued...



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続くんです(爆)!ミチのいう結婚式とは一体なんなのか…?
タクちゃんはどこに連れていかれるのか…?
ミチは何を企んでいるのか…?期待して続きを待とう!
2000615

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